なぜあがる?どのようなとき人はあがるのか 【脳と自律神経・シチュエーションの差】

なぜあがる?どのようなとき人はあがるのか

 


 


なぜあがる?どのようなとき人はあがるのか

 

人前で話すことに多少とも恐れを抱き、行動が消極的になるのは誰にでもあることで、こうした恐れ精神医学では社会不安と呼んで、特に病的とはみなしません。

 

ところが、前向きに乗り越えることができず、人前であがることに悩むあまり不安が過剰になり、さまざまな症状が出てくる場合があります。

 

 

人に会う場面になると激しい不安感におそわれ、耐えがたい苦痛を味わうため、人と会う場面をできるだけ避けようとしたり、視線を合わせないようにいつもうつむいているようになります。

 

また、会話中にまばたきが多くなったり、三人以上集まる席では自分から話をきりだせず、話し方が単調になったり、いったん話し始めると一方的に話すなどの症状が出ます。

 

 

その結果、職場や学校などの社会生活をスムーズに送ることができなくなっていきます。

 

こうした症状が出てくると、もはやあがり症ではなく、社会恐怖という病気としてとらえることになります。

 

 

社会恐怖はDSM(アメリカ精神医学会診断統計マニュアル)によるもので、日本では対人恐怖という名前がほとんど同じ意味で用いられています。

 

社会恐怖で多いのは、人前で話すことがこわい、人に会うと手がふるえてしまうといったことです。

 

関連対人恐怖

 

ほかにも人前で緊張する、他人の視線が気になる、排便・排尿が近くなる、電話に出るのがこわい、赤面してしまう、汗をかくなどがあります。

 

いずれにしろ相手から悪く思われたくないという過剰な思いが要因です。

 

 

社会恐怖は、自分が相手に嫌な思いをさせているのではないかという恐怖から、他人と会うことがこわくなり、その苦痛に耐えかねて、できるだけ人と会うことから逃げることを繰り返します。

 

社会恐怖は、あがり症という社会不安と関連しています。

 


 

脳と自律神経が支配する緊張と不安

 

ひどい緊張感と不安感におそわれたとき、ごく普通にからだに起こる変化には次のようなものがあります。

 

  • 心臓の鼓動が速くなる
  • 呼吸が速くなる
  • 目の瞳孔が広がる
  • 手に汗をかく
  • 顔が青くなる
  • からだがふるえる

 

などで、ほとんどが自律神経で制御されています。

 

からだからエネルギーを発散するこれらの変化は、自律神経のうち交感神経が優位に働いている状態で起こり、緊張が去ると今度は副交感神経が優位になってエネルギーをたくわえる方向に作用します。

 

自律神経の中枢は脳の中心部に位置する視床下部にあり、視床下部は大脳辺緑系に支配されています。

 

人間の感情の変化は大脳辺緑系で発生し、その情報が視床下部に伝わって自律神経系における交感神経と副交感神経のバランスの変化となってからだの変化を引き起こします。

 

不安な状態のとき、脳では何が起こっているのか?

 

脳の中にはいろいろな種類の神経伝達物質があり、神経細胞を刺激して動物の精神状態を興奮させたり、鎮静させたりしています。

 

人間の精神活動は複雑であるため、その全体像はまだ完全には判明していませんが、動物実験や臨床経験から、いくつかの神経伝達物質が不安や恐怖に関係することが知られています。

 

パニック障害の患者はもともとノルアドレナリンで作動するノルアドレナリン性神経細胞の活性が高いとされています。

 

 

不安症のなかでも全般性不安障害や社会恐怖にはノルアドレナリンが関係しているようです。

 

セロトニン性神経細胞はノルアドレナリンの活性を抑制しますが、同時にセロトニンは不安・恐怖症の体質をもっている人の神経に働いて、その症状を誘発します。

 

GABA(ガンマアミノ酪酸)は先の二つの物質と違って抑制性の神経伝達物質です。

 


シチュエーションの差が緊張を生む

 

私たちが人と会ったり話したりするときには、相手によって、あるいは場所や立場によっても、話す態度や内容、会話のトーンなどが違ってきます。

 

家族や友人と話すときと大勢の人の前で話すときでは、明らかに相手との距離が違っています。こうした点に注目した文化人類学者のホールは、人間における距離として次の四つに分けて考えました。

 

密接距離

愛撫、格闘、慰め、保護の距離です。

 

家族や友人など最も親しい関係にみられるもので、直接相手に触れることができる距離です。

 

個体距離

互いに手をのばせば届く距離のことです。

 

例えば妻が夫の個体距離に入っても何の問題も起きませんが、ほかの女性がこの距離に入ると話は別です。

 

社会距離

仕事の用件や社交上の対話など、個人的でない用件はこの距離で行われます。

 

直接話をしたり挨拶を交わすことが可能です。

 

公衆距離

公的な人に限らず、誰もが公の機会に利用する距離です。

 

ガードされた重要人物や舞台上の人物と観衆などの関係にみられるもので、個人的なやりとりは困難となります。

 

 

 

こうした対人距離であがり症をみてみると、密接距離と個体距離で話をしたりするのは家族や友人が多く、緊張や不安はほとんどなく、あがることはありません。

 

あがり症が問題となるのは社会距離と公衆距離です。

 

 

密接距離と個体距離は、私的な領域でお互いの関係が近いために、相手の気持ちをできるだけ推し量り、相手に配慮することが重要になります。

 

しかし、社会距離や公衆距離では、基本的には家族のような関係ではなく、利益を奪いあう関係であったり、雇用のような契約の関係であり、相手に配慮するというよりは、各個人が自己を主張しあうものです。

 

ここでは密接・個体距離のときのような親密さはなく、むしろ個として独立していることが求められます。

 

 

あがり症や赤面恐怖が欧米人にはあまりみられず、日本人に多いというのは、他人に迷惑をかけることや人前で恥をかくことを極端に気にし、はっきり自己主張をすることをためらう日本文化が背景にあるといえます。

 

カナダと日本の大学生を比較調査したところ、多数の人を前にする公衆距離では日本の学生のほうがより強く不安を感じていたという報告もあります。

 

 

また、社会距離では、直接話をしなくてはならないために、相手に嫌な思いをさせてはいけないという加害意識が強く出ますが、公衆距離では直接的な会話はしにくいため、恥をかいて自分が嫌な思いをするのではないかという被害意識が強くなるといわれます。

 

社会的生活空間で起こるあがり症は、加害意識と被害意識、それに日本国有の文化が混じりあった複雑な心理状態ということができます。

 

 

 


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