芸術療法 – アートセラピーの種類とその効果(絵画療法・音楽療法など)

芸術療法 - アートセラピーの種類とその効果(絵画療法・音楽療法など)

音楽や絵画に親しむことは、心身を癒すだけでなく、生活に潤いを与えます。

心身の健康回復・維持に役立つ芸術療法

社会が高度に情報化・多層化するにつれて、精神的なストレスも複雑化してきました。

私たちがかかる病気も、時代を追うごとに多様化、複雑化の傾向を深めています。

そうしたなかで、薬や手術による従来の医学的な治療法だけでなく、園芸療法や芳香療法といった補助的な治療法が注目されるようになりました。

芸術療法はその根幹になるものです。

芸術と称されるものには、音楽、絵画、文学、演劇など、さまざまなものがあります。

また近年では、従来のカテゴリーだけでは表現しきれない、いくつものジャンルの手法を組み合わせた新たな芸術も生まれてきました。

芸術療法には、そうした芸術といわれるすべてのジャンルのものが含まれます。

芸術療法の目的は、芸術的な行為を通して自己表現し、それによって精神的な安定を図り、ひいては肉体的にも健康な状態を保つことにあります。

現在では病気の治療法としてだけでなく、ストレスなどで疲れた心を癒すために、一般の人も芸術療法を日常生活にとり入れるようになっています。

古代から使われてきた音楽療法

数ある芸術療法のなかで、古くから効果が知られているのが音楽療法です。
リズム・旋律・音色・和音などによって構成される音楽には、古代から不思議な力があるとされてきました。

自然界の音とは異なる人工的な音(音楽)は魔法の一種と考えられ、呪術にまつわる効果音として生みだされたのです。

音楽が医術として理論的に位置づけられたのは、紀元前5~4世紀ごろとされています。

ピタゴラス、プラトン、アリストテレスなどの哲人たちは、音楽を運動現象としてとらえ、聴く人の魂を動かすと考えました。

医術によって肉体を治すのと同様に、魂に訴える音楽には心理療法としての効果があるとされたのです。

中世の音楽療法で最も有名なのが、ヨーロッパ全土に名声の知られた声楽家、フェリネリの話です。

スペインのフィリップ5世王は彼の歌を聴き、長いこと陥っていたうつ状態が快癒したといわれています。

音楽療法が本格的に研究されるようになったのは、19世紀末からです。

音楽を聴くと精神状態が安定するだけでなく、歌うことによる心拍や血液循環、呼吸、消化などへの影響や、ぜんそく患者が歌った場合のメリットなどが研究され、医療現場に音楽療法が導入されるようになりました。

音楽療法という言葉が日本に渡来したのは、1954年にアメリカのE・ポドルスキーが編纂(へんさん)した同名の著書を通してです。

同書でポドルスキーは、心療内科から精神科にまたがる多くの病気に対して、どのような音楽の処方が効果的かを示しています。

この間、欧米では研究が進み、音楽をありのままに知覚する、身体をありのままに知覚する、考えや思いをありのままに知覚するという三つの集中課題を実行する調整的音楽療法や、自閉症児に対する流水を使った音楽療法などが行われるようになりました。

一方、日本の音楽療法はアメリカに比べると歴史が浅く、治療の一方法とは正式には認められていません。

しかし、徐々にではあるものの、治療の現場ではすでにとり入れられており、効果の表れた事例も数多く発表されています。

音楽療法の効果

人間の脳は左右に分かれていて、それぞれ知覚する役割が異なっていることはよく知られています。

左脳は言語脳ともよばれ、論理的、分析的、抽象的、数学的思考を営みます。

右脳は音楽脳ともいわれ、直観的、音楽的なものや、パターン認識などの機能を担当しています。

失語症になってしまった人の脳は、左脳の言語中枢の機能が作用していません。

ところが、こうした人でも音楽を聴くことによって右脳を刺激すれば、右脳が左脳の機能を肩代わりする代償作用が行われ、徐々に言葉を回復していったケースが報告されています。

脳梗塞を起こした人でも、日ごろから音楽をよく聴いて右脳の機能を高めていた人のほうが、右脳の訓練をしていなかった人に比べて症状が軽くなった例もあります。

また、音楽を聴くことによって記憶が想起され精神症状が軽快するなど、特に老人性認知症では高い効果が出ているようです。

さらに、統合失調症自閉症の人が音楽を奏でることによって、自分の感情を表現し、それをきっかけに症状が改善するケースもしばしばみられます。

脳性麻痺や認知症の人が音楽に合わせてからだを動かしたり、歌を歌うことで生き生きとしてきたり、集中力がついたといった例などもあります。

音楽が直接的な作用を及ぼさなくても、コミュニケーションのきっかけとなり、治療者と患者の信頼が生まれ、精神的な病が改善した例も報告されています。

さらに、音楽療法の効果の一つにペインコントロールもあげられます。
痛みをやわらげるために、低音振動をからだに体感させながら音楽を聴く音楽体感音響装置が歯科領域や手術関連領域で応用されて、その効果が実証されています。

なかには末期がん患者の鎮痛薬の使用量が3分の1に減ったという例もあります。

音楽の快適さと1/fゆらぎ

自然界のあらゆる現象には、ゆらぎがあるといわれています。

ゆらぎとは、波動の一種で、微妙なゆれを指します。
そのうち1/fゆらぎ(えふぶんのいちゆらぎ)とよばれるものは、自然の音に含まれます。

さらに、最近になって、生体には基本的に細胞レベルでパルス(振動)を発射する1/fゆらぎがあることがわかってきました。

音楽のメロディーにも、1/fゆらぎがあります。

生体がもつ1/fゆらぎと音楽の1/fゆらぎに強い親和性があるため、人間にとって音楽は心地よいものなのです。

特にクラシック音楽には1/fゆらぎのある曲が多く、風俗・習慣などが異なる人種が作曲した西洋のクラシック音楽に日本人も感動するのは、1/fゆらぎがもつ生理現象が共通するからだといわれています。

一方、現代音楽やポピュラー音楽には、リズムが非常に複雑だったり、鋭い不協和音が混じったり、旋律を途切らせたりする曲もみられます。

音楽の独自性や創造性にとっては必要なこれらの特性が、1/fゆらぎをもつ人間の生理には合わない面もあります。

左脳を休め、からだをリラックスさせる音楽として、クラシック音楽が適しているといわれるのは、その特性のためでもあるのです。

また、ヒーリングのために用いられるCDなどの多くが、小川の水音や風にそよぐ木の葉の音、小鳥の鳴き声などの自然の音で構成されているのも、同じ1/fゆらぎをもっているからです。

日常生活のなかでの音楽療法

音楽療法は、音楽を聴くという受容的療法と、楽器を演奏したり歌を歌うという能動的療法に大別できます。

さらに能動的療法は、すでにできている曲を演奏したり歌うという再現的なものと、即興的にその場でつくっていく創造的なものに分けられます。

これらの療法は、そのときの気分や精神的な状況に応じて使い分けられます。

例えばいらいらした気分のときには、クラシック音楽でもロックミュージックでも、激しいリズムとスピードのある旋律の曲を大音響で聴くことが効果的です。

しかも、歩きまわったり、声を出したり、車を運転しながら聴くほうが、より効果的です。

また、CDの曲に合わせて自分でもギターをかき鳴らしたり、ピアノを弾いてみるのもよいでしょう。

気分をリフレッシュしたいときには、軽快で楽しい音楽に身をゆだねるのが適しています。

カラオケでストレスを発散させるのも効果的です。

不安感をぬぐい去るには、明快なメロディーでリズミカルで、メリハリがあって気分が爽快になる音楽を聴くのが効果的です。

しかもあまり長くない曲が適しています。

うつ状態に合う音楽は、ブルース、シャンソン、ゴスペル、演歌など、民衆がつくりだした曲とされています。

こうした症状があるときだけでなく、朝の目覚めから就寝までの環境づくりに音楽療法をとり入れるのもよいでしょう。

例えば、起床時にすがすがしい軽快な音楽をかければ、目覚めもすっきりします。

何か重要な課題に取り組まなくてはならない日は、その前に荘重な音楽を聴き、心の状態を整えてもよいでしょう。

夜、自宅でリラクッスしたいときは、ゆったりと座って好きな音楽を聴けば、その日の疲れは解消されるかもしれません。

治療のためのクラシック曲

胃腸障害
  • リスト:ピアノ協奏曲第2番
  • サティ:梨の形をした3つの小品
  • ドボルザーク:弦楽セレナーデ作品22
  • ドビュッシー:子どもの領分
興奮・いらだち
  • メンデルスゾーン:歌の翼
  • リスト:ハンガリアラプソディ第2番
  • チャイコフスキー:悲愴交響曲第3楽章
うつ病
  • バッハ:ブランデンブルク協奏曲第2番
  • ビゼー:カルメン組曲
  • ガーシュイン:ピアノとオーケストラのための狂詩曲第2番
不安
  • ベートーベン:交響曲第8番
  • ラヴェル:ボレロ
  • ムソルグスキー:展覧会の絵

 

ポドルスキーが治療のために使ったクラシック曲です。
日本人にどれだけ効果があるかは実証されていませんが、試してみてはいかがでしょう。

音楽療法と絵画療法の六つの要素

ひとくちに心といっても、さまざまな要素でなりたっています。

そして、それらのバランスがとれていることが、精神的に安定した状態です。

芸術に関して重要なのは、イメージ形成、思考、言語、感情、感覚、行動の六つです。

それらの各要素をバランスよく刺激すると、精神安定に寄与するばかりでなく、洞察力も深まります。

芸術療法は心の各要素を効果的に引き出します。

音楽を聴いて母体をリラックスさせよう

人間の脳は、妊娠2~3か月からつくられ始めて、4~5か月でその原形ができます。

妊娠期間に母親の脳がα波を出すことが多いと、さまざまなホルモンの分泌量が増え、脳とからだの成長を早めます。

α波が出やすいのはからだがリラックスしているときです。

母親が音楽に身をゆだねていると、成長ホルモンの分泌が多くなって、胎児の脳とからだをすくすくと成長させるといわれています。

反対に母親がβ波を出す状態、つまり思考し緊張しているときは、子宮が締まっているので、胎児にとっては居心地が悪く、胎児もβ波を出すようになります。

妊娠5か月以上になると、胎児には感覚器官ができて、外界の音も聴くことができるようになります。

この時期になったら胎児にも音楽を聴かせて、α波が出やすい状態にしてやりましょう。

胎児の脳を育てるにはリズミカルでやさしい音楽が適しているといわれます。

例えば、モーツアルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」や、ヴィヴァルディの「バイオリン協奏曲四季」、バッハの「G線上のアリア」、ドボルザークの「ユーモレスク」などです。

心の状態を映し出す絵画療法

芸術療法のなかで、音楽療法とともに多くの治療現場でとり入れられているのが絵画療法です。
心の中にある葛藤や悩みなどを言葉を使わず絵を用いて表現しようというものです。

人類が絵を描くようになった歴史は古く、古代人の壁画も残されています。

そのころから、人間は絵を描くことに一種の癒しを求めていたのではないかといわれています。

絵画療法の歴史は古いのですが、精神療法として絵画療法がとり入れられてからは、まだ50年ほどしかたっていません。

絵画療法が精神療法として使われる場合は、患者が描いた絵をもとに臨床心理士や医師が必ずカウセリングを行います。

絵を描いたときの気持ち、絵が表しているものの意味、色づかいに込められた感情などについて、臨床心理士は絵を見ながら患者と話し合い、その後の治療法を決める参考にします。

絵は、描いた人の視点の位置、モチーフ(対象)から紡がれるイメージなど、言葉にしにくい心の中をかいまみる手段として使われます。

絵画療法にはさまざまな技法があります。

山や川といった風景を構成しているものを順次描いていく風景構成法、目をつぶって画用紙こ自由に線を描いていくなぐり描き、家や木、人、自画像、父や母といった描くテーマが与えられるイメージ誘発法などです。

どの技法にせよ、心の奥深くに隠された問題が絵のなかに浮き彫りにされることが、治療には欠かせません。

また音楽同様、絵を介して、治療者と患者の信頼関係が築かれるケースや、絵を描くこと自体が生きる力を蘇らせる例もあります。

絵で心の中を表現する絵画療法は、医療現場だけでなく、日常生活のなかでも気軽に行うことができます。

その場合は、医学的に作品を判断し、治療に役立てるというよりも、芸術的な活動で心にうっ積したものを発散させたり、モチーフの選び方や描き方によって表れる自分の心を客観的にとらえることなどが可能となります。

描く対象や手法などについての決まりは一切ありません。

絵画療法が求めているのは、自己表現による心の癒しであり、さらには創造による心の蘇りなのです。

描く道具もクレヨン、色鉛筆など、好きなものを選ぶとよいでしょう。

絵画療法をやってみたいけれど絵を描くのは苦手という人は、、コラージュを試してみてもよいでしょう。

写真や絵などを切りとって、それを自由に配置していく技法です。

貼りつけるものは、紙類だけに限らず、ボタン、石ころ、木の実といった身の回りのものでもかまいません。

コラージュでも絵画同様、心を表現することは十分に可能です。

例えば女の子の切り抜き5枚と子犬の切り抜き1枚を使ってコラージュをつくるとします。

子犬と1人の女の子が画面の端にいて、もう一方の端にほかの4人の女の子が輪になっているような構図にした場合は、寂しいという思いが表れているとみてよいでしょう。

作品ができあがったら自分なりに客観的に分析すると、自分の心のありようをつかむことができます。

絵画と鑑賞して心を癒す

生活空間のなかに心が癒されるものがあると、落ち着くことができます。

ヒーリングアートとは、日常的に目にすることで心が癒される、絵画などの芸術作品を指します。

ヒーリングアートに特別な規定はありませんが、狭い空間を描いた絵より、地平線や遠くに連なる山々、海や湖などの広大な自然を描いたものがストレスを癒すのには向いています。

印象派の絵なら、マネ、モネ、セザンヌなどのゆったりした絵が該当するでしょう。

印象派の絵に限らず、ながめているだけで心が穏やかになれば、その絵が自分にとってのヒーリングアートといえます。

また、壁やカーテンのように、目につきやすいものの色や柄は、心に与える影響も大きくなります。

快適な生活のためには、白、ベージュ、クリーム色などのやわらかい色が適しているとされます。

寒色系の色や中間色は心に安定をもたらします。
このように、自分をとりまく色で精神の安定を図ることをカラーセラピーといい、これも絵画療法の一つです。

絵画療法の風景構成法

絵画療法の基本的な方法として用いられているもので、絵のなかに山、川、橋、建物、樹木、人間、動物、草花、石ころなどという風景を構成する事物を描いていくものです。

これらの要素は、必ず山から順に描いていきます。

もし、遠景の山は見上げるように描いているのに、近景の人や動物は見下ろすように描かれていたら、空間的な心のゆがみがあるのかもしれません。

芸術療法のなかには、俳句療法もあるそうですが、どのような療法ですか?
俳句療法は、1960年代にアメリカでその有効性が確認された詩歌療法の日本版として紹介されました。
俳句が自己表現の手段として有効なのは、

  • ①外的な事物の客観的なありようをよむこと
  • ②自己を直接出さずにすむこと
  • ③五七五の枠組みがあるため難解な表現を必要とせず、季語でよむ世界を限定できること
  • ④定型詩としては世界最少の文字数で作品が完成することの喜びがある

などのためです。
当初は統合失調症患者への治療法としてとり入れられましたが、コミュニケーションの媒介として有効なので、多くの局面で用いられています。

音楽は人間だけでなく、植物や動物の成長にも影響があると聞きましたが、本当ですか?
水耕プラントの野菜にモーツアルトの音楽を聞かせて光合成を活発にし、酒蔵で麹菌や酵母菌にバッハの音楽を聞かせておいしい日本酒ができたといった例が知られています。

最近では、ソフトクリームにクラシック音楽を聞かせることで溶けにくくするといった例も報告されています。
これらは音楽の振動が、野菜や酒などに有効に作用しているからと考えられています。

芸術療法のまとめ

芸術療法といっても、決して難しいものではありません。
要は、五感を研ぎ澄まし、生活を潤いに満ちたものにすることが大切です。

ストレスにむしばまれて感覚を鈍らせたままにしておくのではなく、心地よい音楽を聴いたり、絵を描いたりすることで、ある種の感覚が伸びれば、ほかの感覚も高めようという意欲がわいてきます。

音楽療法や絵画療法は、その有力な足がかりと考えるべきでしょう。
日常生活に潤いを与えるためにも、音楽療法や絵画療法をとり入れてみてはいかがでしょう。