子供のうつ病
意外に多い子供の気分障害(躁病、うつ病)
うつ病は、憂うつでふさぎ込んでしまう抑うつ気分を主症状とする精神疾患で、興味や喜びの感情が起こらなくなったり、気力・行動力・集中力の低下、罪の意識などを伴います。
また、からだの病気がないのに、疲れやすい、食欲がなくなって体重が減る、よく眠れないといった身体的な症状も出てきます。
1994年に出されたアメリカ精神医学会の診断基準DSM-IVでは、うつ病は、感情の病気である気分障害のなかに分類され、大うつ病エピソード、大うつ病障害という診断名がつけられています。
喜怒哀楽の感情は、人間なら誰でももっており、自分の体験や出来事に対して、さまざまな感情がわき起こってくるのは、ごく一般的なことです。
しかし、その感情の表れ方が強すぎたり、状況にかかわらずある気分が長く続きすぎたりすると、本人の日常生活や、周囲の人との人間関係に支障が生じてきます。
このような著しい感情の障害が、気分障害です。
DSM-IVの気分障害には、ほかに気分が高揚した状態が続く躁病、一般的には躁うつ病とよばれているうつ状態と躁状態を繰り返す双極性障害などが含まれます。
(子供の躁病)
気分障害は、比較的最近まで大人特有のもので、子供にはほとんど起こらないという考え方が主流でした。
日本の精神科医の間にはまだこの考え方が根強く、一般向けの医学解説書などには、うつ病や躁病は、大人になってから発症すると書かれているものもあります。
しかし、さまざまな研究から、子供にも躁病、うつ病などの気分障害が、これまで考えられていた以上に高率にみられることがわかってきています。
気分障害のなかでも、うつ病はよくみられるものです。
アメリカのある研究では、子供のうつ病の出現率は、5~10%とされています。
アメリカでは、成人のうつ病の出現率も10%程度といわれているので、子供のうつ病も、大人に近い割合でみられるといえます。
また、両親の一方がうつ病の場合には、その子供の4人に1人がうつ病にかかるという報告もあります。
うつ病は子供の興味や喜びの感情がなくなる
DSM-IVでは、うつ病(大うつ病エピソード)の診断基準として、
- ほとんど毎日の抑うつ気分
- 興味や喜びの著しい減退
- 体重の5%以上の増減または食欲の著しい増減
- 不眠または過眠といった睡眠障害
- 焦燥感や精神活動の制止
- 易疲労性(疲れやすさ)または気力減退
- 無価値観(自分は意味のない存在だと感じることなど)や過剰な罪責感
- 思考力や集中力の減退
- 自殺を考えること
の9つの症状があげられています。
このうち①と②のいずれか一つを含む五つ以上があてはまるときに、うつ病と診断されます。
子供の場合も、この基準をもとにうつ病の診断を行う傾向になってきました。
ただ、子供のうつ病では、抑うつ気分の代わりにいらいらした精神状態がみられたり、体重の増減がない場合でも、成長期にありながら体重が増加しないことなども症状の一つと考えられています。
子供のうつ病に見られる身体症状の異常
うつ病は感情の障害なので、大人では主に精神面が問題となり、本人も精神症状に加えて身体症状を訴える場合が多くなっています。
しかし、子供の場合、抑うつ気分に陥って悩んでいることをうまく言葉で表現できないために、行動の仕方やからだの症状として現れるケースが目立ちます。
よくみられる身体症状としては、例えば、寝つきが悪い、夜中に目を覚ます、朝起きられないなどの睡眠障害、朝がつらく、夕方は比較的楽といった日内変動が顕著です。
食事の量が減って体重が減少したり、逆に食べすぎて急激に太る子供もいます。
身体的な疾患がないのに、頭痛や腹痛、胸苦しさ、だるさを訴えたり、便秘や下痢になったりします。
ドキドキする、吐き気がする、汗をかきやすいといった症状も現れます。
女子の場合には、月経が止まってしまうこともあります。
また、子供は、自分の症状を訴えようとするときに、精神症状を身体症状として表現するケースも多いものです。
落ち込んでいることを頭が痛いと言ったり、いらいらして落ち着かないときに胸が苦しいと表現したりします。
子供自身は、自分の内面に何か異常を感じても、自分の身に何が起こっているかをうまく表現できない場合がよくあります。
こうした症状を通して子供の心の問題に気づくのは、大人の大切な役割といえます。
うつ病の子供に効果の高いカウンセリング
大人のうつ病の場合には、医師や臨床心理士によるカウンセリングはあくまでも薬物療法の補助的なものとして行われますが、子供の場合には、カウンセリングが比較的重要になります。
子供の苦痛を思いやり、理解しようとする人がいることが、子供の精神的な負担の軽減につながるからです。
また、子供自身、よくわからず説明もできなかった自分の症状を、専門家にかみくだいた表現で説明を受けると、安心感をもちます。
うつ病の場合、休養をとることが治療の基本です。
薬物療法、カウンセリングの効果が非常に高いケースでも、休養は不可欠です。
また、子供にとって家族や教師の支えは特に重要です。
学校では、ほかの子供の反応などによって、うつ病の子供が激しく傷つくことも考えられます。
必要に応じて、同級生に病気について説明し、うつ病の子供が学校に通いやすい状況を整えていくことも必要です。
子供はまだ発達段階にあり、うつ病の経過だけでなく精神面も日々変化していきます。
よく子供を観察しながら柔軟な姿勢で接することが大切です。
子供のうつ病の中核症状と二次症状
中核症状(生活環境や性格に関係しない症状) | 二次症状(生活環境や性格を反映する症状) |
---|---|
抑うつ気分 | 強い不安 |
興味の減退 | いつもメソメソしている |
喜び、楽しみの減退 | 落ち着きがない |
意欲の減退 | いつもいらいらしている |
知的活動の低下(成績が落ちる) | 不登校 |
食欲の障害 | ひきこもり |
睡眠の障害 | 暴力・非行 |
日内変動など | 衝動的行動 |
不安・不穏 | 自殺を計画する |
うつ病の症状は、誰にでも現れる中核症状と人によって現れ方が違う二次症状に分類できます。
二次症状は、その人の性格や生活経験、社会習慣によって差異があります。
子供の性格や環境に関連するうつ病の症状
睡眠障害や食欲の異常、その日の気分の日内変動は、子供の性格や育った環境などに関係なくみられるものです。
もちろん、うつ病の特徴である抑うつ気分、興味や喜びの減退、知的活動や好奇心の低下も、子供の個性にかかわらず誰にでも起こりうる症状です。
一方で、家庭環境、本人の性格などに関連して出てくる症状、または行動もあります。
うつ病のために不登校やひきこもりなど、一般的には適応障害とされる状態に陥る子供もいます。
不安やうつ状態が強くなり、家から一歩も出ず、行動もとぼしくなったり、自傷に走ったりしてしまう場合もあります。
また、反対に落ち着かず、始終動きまわっていないと気がすまなくなるケースや、暴力や非行に走ってしまう子供もいます。
抑うつ気分に対する本人の感じ方にも個人差があり、その気分に対する強い不安や恐怖感を抱く子供もあれば、怒りのような感情をもったり、イライラして攻撃的になる場合もあります。
生活環境や性格に関係なく現れる症状は中核症状、本人の個性を反映する症状は二次症状とよばれます。
子供の自殺はうつ病やうつ状態だったと考えられるケースが多い
うつ病の子供は、必要以上に自分を責めたり、自分の存在の意味のなさを感じたりしています。
そのために死にたくなったり、実際に自殺を図るケースも少なくありません。
衝動的に自殺を図ってしまう子供もいます。
一般的に子供の自殺は、理由にかかわらず飛び降りや首つりなど確実に死に至る方法を選び、未遂に終わることが少ないのが特徴といわれています。
また、遺書がなく、理由がはっきりしない場合が多いようです。
また、自殺した子供のなかには、振り返ってみると、それまではその子にはみられなかった状態が現れていたケースもあります。
例えば、いつになく元気がない、会話がない、不眠、食欲不振などです。
死にたいとか、自殺するといった言葉を口にしていた例もみられます。
最近のニュースでは「いじめによる自殺」報道が多いように感じられます。
「なぜ苦しくても、生きねばならないのか」という疑問には親でさえ明確な答えを出すのは難しい時代ですが、一度きりの人生何が大切な事かを大人達がよく考え子供に伝えることが大切です。
自殺を図った子供たちのなかには、実はうつ病やうつ状態だったと考えられるケースも多いのです。
こうしたサインを大人達は見逃したり聞き逃したりせずに、精神的に追いつめられていることを察して、十分に休息させることが自殺の予防につながるといわれます。
子供の躁病-興奮してはしゃぎ、言動もまとまりがなくなる
うつ病とは反対に、気分が高揚した状態が続く病気が躁病です。
うつ病に比べてかなり少ないといわれていますが、躁病もまた、大人同様に子供にもみられる感情の障害の一つです。
DSM-IVでは、躁病エピソードという診断名になっていますが、うつ病と同じ気分障害の一種です。
躁病の人は、根拠もなく自分が偉くなったように思って横柄な態度をとったり、お金持ちになったと思い込んで、たくさんの買い物をしたりします。
気分が高ぶって落ち着いていられず、常に動きまわったり、しゃべり続けたりしますが、その言動にはまとまりがありません。
これは、やりたいことが次々に浮かび、そのすべてを実際にやろうとするからだと考えられています。
子供の場合には、こうした言動を学校で行うことになり、その結果、授業に集中できなかったり、規則を無視したり、なかには友だちや先生に暴力を振るうケースもあります。
睡眠時間が極端に少なくなり、そのくせ本人が眠いと思わないのも躁病の特徴です。
また、誇大妄想が現れることもあります。
周囲のみんなが自分を尊敬していると思ったり、自分は誰よりもすごい人間だと思い込んで自慢したりします。
妄想があるために、結果的にうそをついてしまうのです。
こうしたうそがきっかけになって、周囲の人が心の病気だと気づくこともあります。
また、いらいらしたり、不安がることがあるのも、躁病の子供の特徴です。
躁病は、状態が悪くなったりよくなったりを繰り返します。
うつ状態と躁状態が繰り返し起こる病気を躁うつ病といいますが、DSM-IVでは、混合性エピソード、双極性障害としています。
子供の場合、うつ病の状態と躁病の状態が入れ替わるサイクルが短いのが特徴です。
子供のうつ病が主に本人やその家族にとっての問題であるのに対し、躁病の子供はまわりの子供たちにも影響を与えがちです。
また、睡眠不足や、攻撃的な行動が、本人の健康を害したり、周囲の人を傷つけることもあるので、早く発見し、治療を行うように努めましょう。
社会環境も子供がうつ病を発病する誘因
現代社会はストレス社会ともいわれ、精神的な余裕をもちにくい状況にあります。
こうした社会背景のもとで、大人のうつ病が増加しているといわれています。
社会環境が多くの人に精神の病をもたらしているという意味では、子供も大人同様の状況にあるといえます。
マスコミやインターネットを通じてどんどん情報が入ってきたり、人間関係に気をつかったり、受験による競争の激化、習い事や学習塾でのストレスなど、精神を休める暇がないような生活を強いられている子供がたくさんいます。
こうしたなかで精神的に追いつめられていくことが、うつ病の発症に大きくかかわっているとも考えられています。
また、大切に思っていた人との別れ、転校、受験の失敗、親からの叱責、大きな病気やけがによる入院などによって子供が落ち込むのは、通常みられることですが、気分の落ち込みが激しく、しかも長期間に及ぶ場合には、うつ病が疑われます。
大人のうつ病患者を励ますのは厳禁だということは、今では広く知られるようになりましたが、これは子供も同じで、しかられたり励まされたりすると、かえって落ち込むので注意が必要です。
周囲の人は温かい気持ちで見守ることが大切です。
子供のうつ病は、やる気がなくなっていることや、成績の下落に気づき、何とかしなければと思っているものです。
それでも自分の力ではどうにもならないために悩み、自分は意味のない存在だと感じたり、生きていてもしょうがない、いっそ死んでしまいたいなどと思ってしまいます。
こんなときに「頑張れ」と励まされると、その励ましにこたえられないことがますます落ち込む原因になります。
家族や教師、友だちが、元気づけるつもりで言ったたわいのない一言に、胸を突き刺されるような苦しみを覚えることさえあるとされます。
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