引っ越しうつ病

2020年7月3日

うつ病は、慣れ親しんだ人や大切な物を失って、大きな喪失感に打ちのめされたときに発症しやすい心の病です。
心が疲れきってしまい、生きるエネルギーが極端に落ちてしまいます。

うつ病は、いろいろな出来事が引き金となって起こりますが、引っ越しがきっかけになって抑うつ状態になる場合を「引っ越しうつ病」といいます。
引っ越しは、長年住み慣れた土地を離れて、まったく新しい環境に移るわけですから、家族全員にストレスが加わります。

なかでも女性、特に家庭の主婦にとっては生活の場が「家」そのものですから、引っ越しは単なる生活空間の移動というわけにはいきません。

近所の人たちとの交流や、仕事、趣味などを通してそれまで築き上げてきた生活スタイルをいったん捨て去り、新しく自分の存在そのものをもう一度つくり直さなくてはならないことを意味しています。

新しい環境になじめないというだけでなく、それまでの生活が途切れる結果、引っ越しうつ病が生じるといわれ、特に40代からの中年期の家庭の主婦に多くみられる症状です。

地域に密着している主婦にとって生活圏が変わることは、精神的に不安定な状態におかれることになり、想像以上のストレスになります。

夫の転勤で引っ越しするような場合に限らず、念願のマイホームを手に入れて、自ら望んで引っ越しするような場合でも、引っ越しうつ病を発症することがあります。

新居に移って、ほっと一段落した後に「気分が落ち込んでしまう」「家事が以前のようにできなくなった」などの精神症状が現れ、うつ病を発症します。

妻だけでなく、夫も大阪から東京、東北から九州など、大きなカルチャーギャップを伴う場合は要注意です。

内気な子どもが親しい友だちとの別れを体験すると、悲しみは深く、本人が社交的でないために新しい友だちもできにくく、うつ状態に陥りやすくなります。

さらに、地方に住む老父母が、都市部、あるいは文化圏の違う土地に住む子どもたちと同居を始めるケースがあります。

単純な肉体的な疲れがとれるころから、老父母は深いふるさと喪失感を味わい、望郷の思いをふくらませます。

同居家族とのライフスタイルや、さらに言葉の違いなど適応しにくい条件も無視できません。
引っ越しうつ病は、家族の誰もがかかる可能性があります。

引っ越しうつ病 主婦の場合

引っ越しうつ病の症状は、主婦の場合、まず家事に現れます。

なかでも炊事により顕著に出現します。
毎日の献立に頭が回らず、何をつくったらよいのか決断できなくなるのです。

食事の買い物にもなかなか行かなくなります。
食欲がないこともあって味覚に自信がなくなり、炊事をするのが嫌になってしまうのです。

朝がつらくなり、服装や化粧といった身だしなみも気にしなくなります。
何か買い物をしたいという欲求もなくなり、何をするにもおっくうで、次第に家に閉じこもるようになっていきます。

こうした症状は、引っ越しうつ病に特有なものではなく、一般に軽症うつ病とよばれるうつ病の初期の兆候としてみられます。

うつ病は、単なる気分の落ち込みや憂うつ感ではなく、身体的な症状が強く出てくることが特徴です。

全身の倦怠感、食欲不振、睡眠障害、性機能障害など基本的な生命活動に影響する障害が認められ、1日のうちでも、身体症状、精神症状ともに朝悪く夕方よいといった周期性の変動があります。

身体症状

軽症うつ病の患者はさまざまな身体症状を訴えることが多く、次のようなものがあります。

「睡眠障害」

最も多い症状で、初発症状のことも多くあります。
寝つきが悪い、熟睡できず夜中に日が覚めてしまう、朝方早く目が覚める、夢を多く見るなどが一般的な睡眠障害の症状ですが、ときには睡眠過剰という人もいます。

「食欲不振や体重減少」

うつ病では特徴的な症状ですが、まれに逆の過食・体重増加がみられることもあります。
うつ病で食欲が落ちている場合には、いくら食欲増進剤などを服用しても食欲はなかなか元に戻りません。

「自律神経症状」

便秘、動悸、めまい、発汗、ほてり、口渇、手指のふるえなどがみられます。
また、性欲減退や月経異常なども多くあります。

「痛み・圧迫感」

頭痛、頭重、肩こり、胸痛、関節痛など、身体のあちこちに痛みや圧迫感がみられます。
このうち頭痛はかなり発生頻度が高い症状で、まれには耐えがたい痛みを感じる人もいます。
全身の倦怠感、疲労感などを訴えることも多くあります。

精神症状

うつ状態に特徴的な精神症状は次の三つです。

「感情の沈滞」

中心となるのは抑うつ気分で、喜びや楽しさの感情が失われ、悲哀感、劣等感、自己不全感を抱くとともに、多少とも焦燥感、不安感を伴うことがあります。

「思考の過程と内容の抑制」

頭が働かず、考えが堂々めぐりして、まとまらないといった思考渋滞や思考停止が認められます。

症状は集中力の減退、決断力の低下、記憶力の低下としても現れます。

また、思考内容も悲観的で絶望感が強く、自分の能力を過小評価する傾向がみられ、妄想にまで発展することがあります。

人に迷惑をかけたという意識から自分を倫理的に許せないという考えにとりつかれる罪業妄想、お金がなくなり明日の生活にも困るといった貧困妄想、不治の病にかかってしまったという心気妄想などとして出現します。

うつ状態のもとでは、周囲に申し訳ない、迷惑をかけるばかりだと考え、自殺念慮を抱くようになります。

この自殺念慮傾向は発病初期か回復期に多いため、注意が必要です。

「意欲・行動の低下」

全体的な活動が低下して、動作は緩慢となります。
また、人に会いたくない、何もしたくない、思うようにからだが動かないなどの症状が生じてきます。

外部の世界の出来事への興味も失ってしまうため、テレビを見たり新聞を読む気も失ってしまったり、見ても読んでも頭に人らなくなったりします。

特に女性の場合は、内分泌系の変化がストレスとなって、心やからだに影響を受けやすいことがあげられます。

肩がこる、頭がのぼせる、腰が痛いといった更年期に現れる不定愁訴も内分泌系によるものです。

中年期の女性の軽症うつ病は、身体症状がこうした不定愁訴といわれる更年期障害のものに近いため、よく混同されやすいのですが、うつ病特有の不眠や気力の衰えがはっきりしています。

引っ越しうつ病チェック

  1. きれい好きで物を片づけるのが好き
  2. やりだしたら徹底的にやりたい
  3. 他人に自分がどう思われるかを気にする
  4. 人と争うのは苦手で平和主義
  5. 刺激を受けやすく気が小さいほうだ
  6. 責任感が強いほうだ
  7. 義理・人情を重んじる
  8. 人に頼まれると断りにくい
  9. 常識を重んじ大事にする
  10. 目立つことがきらいで極端なことをしない
  11. 熱しやすいところがある
  12. 昔は働くのが好きだった

こうした性格の人は、引っ越しの際に大きなストレスを受けてしまいやすく、引越しうつ病になりやすいと言えます。

片づけが好きで、きれい好きですから、荷物の運搬や整理整頓などの雑用に人一倍精力をそそぎ、それだけでも疲れ果ててしまいます。
まして働くことが好きですから、新しい仕事を探そうとするかもしれません。

周囲とも上手につき合い、争いごとを避けるために近所づき合いにも努力を惜しみません。
そのうえ、夫や子どもも新しい職場や学校でストレスを抱えて帰ってくるので、その愚痴も一手に引き受ける役割を果たさなくてはならないのです。

引っ越しから2~3か月ほどたって、まわりが落ち着いてきたころに、それまで張りつめていた気分が急に落ち込んでいきます。

いくら努力しても乗り越えられなかったり、納得できるように事態が運ばなかったりしたときに思い悩んで、その負担をすべて自分一人で抱え込んで、うつ状態に陥ってしまいます。

引っ越しうつ病は、長年慣れ親しんできた人や環境との別離の体験がきっかけとなって引き起こされたうつ病です。

うつ病になりやすい性格の人は、いわゆるまじめ人間で、もともと融通性に乏しく、気分転換も下手な人が多いため、新しい人間関係や生活環境になかなか適応しにくいのです。
喪失感をいつまでも引きずりがちで、やがては自分の心の負担に耐え切れず、うつ病に陥ってしまいます。

このようなことを繰り返さないためには、いつまでも一人で心の負担を抱え込んで悶々としないで、誰かの助けが必要なので医師や心理カウンセラーといった専門家に相談してみましょう。
専門家に相談するのに抵抗がある人は、まずは家族や友人に聞いてもらいましょう。

意識して周囲を見渡す余裕をもつことで、これまでの自分を振り返り、なぜ自分がうつ病になったか原因をじっくり考えてみましょう。

心身の疲労をため込まず、自分自身がすり減らないようにするには、それまでの自分自身の価値観を切り換えていくことも大事です。

うつ病になりやすい性格

うつ病には、病前性格といってなりやすい性格があります。
多くのうつ病患者は「執着気質」とか「メランコリー親和型」とよばれる性格に当てはまるといわれます。

執着気質とは、仕事熱心、凝り性、几帳面な性格で、ごまかしを許せず、いいかげんになれないといった特徴をもっています。

物事に執着し、一度起こった感情が、時とともに冷却することなく持続したり増強したりするため、気分転換が下手で融通がききません。

責任感が強く、何事も徹底的にやらないと気がすまない完璧主義者なので、頑張りすぎて疲れ果ててしまうこともあります。

メランコリー親和型は、執着気質と共通した点が多いのですが、秩序が生活の根本原理で、几帳面、勤勉、仕事熱心、堅実で、過度に良心的な性格的特徴をもっています。

秩序という枠組みのなかで完全主義的に行動するため、環境の変化についていけず、うつ病を発症します。

この性格のもう一つの特徴は、自分は「他者のための存在」という考え方をし、行動する点にあります。

他人のために尽くし、頼まれたことは断れず、他人との円満な関係を保とうと気にします。

自分自身への要求水準も高く、完全さを求めるために融通がききにくく、適応不応に陥りやすくなります。

引っ越しうつ病の克服体験談

夫の転勤をきっかけにうつ病を発症

夫の(54歳)の地方支社への転勤に伴い、住み慣れた我が家を離れ、転居することになりました。

一人息子はすでに独立し、今は夫婦二人の生活です。

転居後しばらくは、近所への挨拶周りや家のなかの整理整頓などの雑事に追われ、忙しい毎日が続いていました。

3か月ほどしてやっと落ち着いてきたころに、身体の不調を感じて、朝は早く目が覚めるのに気分がすぐれず、身体が重く感じられてなかなか起きることができませんでした。

家事をしたり、買い物に行く気力もなくなって、むなしさにおそわれることもしばしばでした。

もともと凡帳面な性格でしたが、家事を放ったままごろごろしていたり、疲れたからといって夕食の用意もしないといったことが続くようになりました。

心配した夫の勧めもあって、近所の内科医院を受診しましたが、からだには特に異常がないとの診断でした。

内科医の紹介で精神神経科クリニックを受診したところ、うつ病であることが判明したのです。

私の場合、慣れない土地に引っ越して、これまでと生活のリズムがすっかり変わったこと、親しい人もなく、近所の人たちとのつき合いに気をつかいすぎたことなどが大きなストレスとなり、うつ病を発症したものと思われました。

抗うつ薬の服用を開始するとともに、医師から病気の原因や症状などについて詳しい説明を受け、十分な休養をとって無理をしないようにアドバイスされました。

3か月ほどの治療で症状は回復し、現在は安定した状態を保っています。

専業主婦(52歳)

特に主婦の場合、会社に勤めている男性と違って、家庭は休養の場とはなりません。
主婦にとっては家庭が仕事場だからです。

うつ病になって家事がおろそかになっても、本人が怠けているのではなく、努力していることを家族も理解し、慰め・希望を与えることが大切です。
頑張ってきたことを十分に認めて、ゆっくり休養をとれるような環境をつくることが何より大切です。

また、うつ病患者に励ましや気分転換を勧めることは逆効果になります。
責任感の強い性格もあり、何とかしなくてはという思いは本人が一番強くもっているのです。
励ましたり、気分転換を促すことは、自責感をますますあおり、逆に追いつめてしまうことになります。