躁うつ病(双極性障害)

感情の制御機能が障害され、気分が激しく浮き沈みする病気で、感情(気分)障害の双極性障害、双極型躁うつ病ともよばれます。

躁うつ病と、うつ病が現れる感情の障害

躁うつ病は、気分が高揚する躁状態と気分が落ち込んでしまううつ状態が、ある限られた期間に交互に、または周期的に現れる精神疾患です。

ところが、躁うつ病という名称は、躁だけの人、躁と、うつを繰り返す人、うつだけの人も含む大きな概念としても扱われてきたため、躁病、躁うつ病、うつ病の違いがあいまいになり、単に躁うつ病といったときには、うつ病のみを指すという混乱が生じてしまいました。

躁うつ病の研究が進むにつれて、喜怒哀楽といった人間の感情あるいは気分は、連続的なひとつながりであり、その機能が障害された躁病やうつ病は単一の病気の異なる状態であるという考え方が支配的になりました。

また、うつ病患者がいる家族についての臨床遺伝学的な見地などからも、従来の躁うつ病の概念は大きく変わることになりました。

新しい精神医学の診断と分類では、これまで躁うつ病という名称でよんできた大きな枠組みを、感情障害あるいは気分障害という言葉でよぶようになり、分類も躁状態が現れるタイプと現れないタイプの二つに大きく分けて考えるようになっています。

現在、世界中で広く用いられている診断基準の一つ、アメリカ精神医学会によるDSM-IVの分類では、気分障害を、大うつ病性障害、気分変調性障害、双極性障害、一般身体疾患による気分障害、および薬物などによる物質誘発性気分障害に分けています。

大うつ病性障害は、うつ病のみが現れるもので、単極性(型)うつ病、周期性うつ病などともよばれます。

双極性障害は、躁と、うつを繰り返す従来の躁うつ病のことです。

双極性障害は、さらにⅠ型とⅡ型の二つに分類され、はっきりとした躁状態とうつ状態を繰り返すタイプをⅠ型、うつ状態はかなり強い状態を示すものの躁状態は軽症にとどまるタイプをⅡ型としています。

また、これまで躁状態のみが現れるものとされた躁病は、単独で現れることは少ないため、DSM-IVでは双極性障害のなかに含めています。

現在でも躁うつ病という名称が、うつ病と躁病が単独で発症するものも含む広義の躁うつ病概念として扱われることがありますが、ここでは双極性障害を意味しています。

躁うつ病は10~30代でも発症

どんな人にも感情の波があり、気分的に落ち着いたときばかりでなく、浮きたったり落ち込んだりすることがあります。

人間の脳には感情を調節する機能があり、普通はそうした気分の変動による心の動きや感情表現を自分でコントロールして日常生活を営んでいます。

こうした感情をコントロールする機能がうまく働かなくなり、感情や本能的な欲求に障害が起こるのが、躁状態やうつ状態を示す感情障害です。

感情障害では、一定の期間が過ぎると、統合失調症などとは違って、通常は人格に障害を残さずに回復し、脳にも器質的な変化は認められないとされています。

躁うつ病のなかでも、本格的な躁状態とうつ状態を繰り返すⅠ型は、成人人口の0.8%にみられるといわれます。

うつ状態を中心に軽い躁状態を繰り返すⅡ型は女性に多く、頻回に再発を繰り返す急速交替型(ラピッドサイクラー)がよくみられ、患者数は少ないものの治りにくいとされています。

躁うつ病を発症するのは10代後半から30代ですが、初回発病時に専門医を受診することはまれで、発症から初回治療までには5~10年の間があるといわれています。

躁うつ病 原因と4つの要因

躁うつ病の原因はまだよくわかっていませんが、現在のところ生物学的な素因、遺伝的な要因や生活環境などによって形成された性格傾向、そして心理社会的ストレスや身体的状況などの誘因が発症のメカニズムに関与していると考えられています。

躁うつ病 原因その1【脳の神経伝達物質】

生物学的要因としては、神経伝達物質が関与しているというアミン仮説が有力視されています。

うつ病では脳内のインドールアミンやカテコールアミンなどの神経伝達物質が減少し、躁病では逆に増加しているという説です。

ノルアドレナリン系やセロトニン系など脳内の神経伝達物質の代謝を制御しているシステムに何らかの異常があるとみられています。

また、CT(コンピューター断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴映像法)検査などの画像診断が進歩するにつれて、躁うつ病や重症のうつ病では、統合失調症患者に類似した脳室の拡大が認められる例も報告されています。

躁うつ病 原因その2【遺伝的要因】

家族に躁うつ病の人がいる場合、その子どもは、そうでない人の発病率に比べて8~10倍高いとされ、きわめて高い発生頻度になっています。

しかし、血友病のように遺伝子の異常が遺伝して発病する遺伝病というわけではなく、高血圧や糖尿病のように、病気になりやすい遺伝的要素がみられると考えられています。

躁うつ病 原因その3【性格的な要因】

躁うつ病患者の性格は循環性気質の人が多いといわれます。

循環性気質とは、社交的で人づき合いがよく、行動的で活発である半面、ときとして落ち込むという性格傾向をいいます。

周囲に同調的で、一体感や連帯感を求め、快活で明朗な半面、寂しがりやで、センチメンタルな面があるといえます。

また、体形的には肥満型であることが多いともいわれます。

躁うつ病 原因その4【心理社会的要因と身体的要因】

躁うつ病のきっかけとなる心理社会的要因には、就職や転職、退職、出産、転居、近親者との死別など、慣れ親しんだ秩序の変化があります。

また、躁状態は、必ずしも喜ばしい出来事で起こるわけではなく、葬式躁病などといわれるように、近親者の死など、ストレスが続いた後や悲しい状況でも躁状態になります。

躁病相とうつ病相の誘因となる出来事には、本質的な差はありません。

一方、身体的要因としては、さまざまな身体疾患、手術、外傷、身体的疲労、睡眠不足、月経・出産、季節変動などがあります。

躁うつ病の診断と経過

躁うつ病は、診断の決め手となる明らかな身体的症状が存在しないため、主に精神症状や経過から検討されます。

総合的な病歴が聞かれるほか、血液や尿の検査も行われ、からだの異常が調べられます。

服用している薬や身体の疾患が原因であれば薬剤を変更したり、病気の治療をします。

また、疑わしいほかの病気と鑑別するため、類似の症状を呈する病気を除去していきます。

躁うつ病の発症と経過

躁うつ病の発症は単極性うつ病よりも若く、10代から始まることがあるのが特徴です。
また、躁病相が最初に出てくることが多いともいわれています。

若年者ほど病相期は短く、反復が頻回です。
うつ状態では低年齢ほど行動制止や寡黙、不眠、頭痛や腹痛などがみられます。

自殺を企図するのは14歳以降とされ、成長するにつれて孤独感や寂蓼感が強くなります。

躁状態では、若年ほど興奮、多動が多く、年長になるにつれて爽快感や自信過剰などが出るようになります。

うつ病相の期間は3か月以内、躁病相の期間はうつ病相よりも短く、1~3か月といわれています。

病気が進行するにつれて、病相の間隔が短くなることもありますが、一般には4~5回のインターバルを繰り返した後に、病相の間隔は安定するケースが多いとされています。
しかし、一部には、急速交替型の病相を示すケースもみられます。

躁うつ病の予後

躁うつ病患者の40~50%は、初めての病相から2年以内に2度目の躁病相を生じることが多くなります。

抗躁薬のリチウムの維持療法による予防によって、躁うつ病の経過や予後は改善されますが、十分にコントロールできるのは50~60%とみられています。

発症年齢が遅く、躁病相が短期間で自殺企図がなく、ほかの身体疾患を併発しない場合は予後が良好です。

外国の長期追跡調査では、躁うつ病の約15%が予後は良好で、45%が良好ながら再発を繰り返し、30%は部分寛解がみられ、10%が慢性化するという報告があります。

病相期も数週間から数か月まであり、間隔も長短さまざまです。
躁病相とうつ病相との間に回復期をもつものと、もたないケースがあります。

躁うつ病と家族の対応

躁うつ病は、躁状態とうつ状態を繰り返す病気ですが、家族にとって最も困るのは、躁状態の時は患者自身に病識がないことです。

躁の状態では誇大妄想的な発言をしたり、次々に新しいことを始めるために、周囲の人々に多大な迷惑をかけることが多く、振りまわされる家族は憔悴(しょうすい)し疲れ果ててしまいます。

また、何かと誤解を招きやすく、社会的責任の大きい立場にある人などではその地位を失う危険性もあります。

家族は、できることなら軽いうつ状態で静かに穏やかに日々が過ぎていくことをついつい望んでしまいます。

しかし、躁うつ病は、基本的には薬物療法によって非常によく治る病気になっています。
悲観的にならないことが大切です。

また、躁うつ病は再発しやすい病気ですが、家族が患者の日常生活の記録をつけ、症状をモニターし観察することで、例えば1日に3通以上友人との電話やEメール、手紙を書いたら躁状態に移行するといった目印をみつけることも可能になります。

できるだけ早期に治療することが、患者だけでなく家族にとっても非常に大切になります。

躁病相とうつ病相の違い

躁うつ病を治療せず放置しておくと、生涯10回以上の操状態とうつ状態の繰り返しがみられるといわれます。
躁病相とうつ病相では、以下のような違いがあります。

操状態の症状

躁状態の症状は、患者が健康なときの行動や性格と比較しないと判断しずらい場合があります。

興奮しやすく高揚した気分が特徴で、特に躁病の初期や軽躁状態の時では、非常に上機嫌で幸福感、万能感が強まり「何を聞いても見ても楽しい」と感じられ、楽観的で周囲の人の面倒をみたりします。

しかし、その段階を越えると、感情の調節が困難になり、ささいなことで刺激を受け、興奮したり、喜怒哀楽の感情表現が目まぐるしく変化します。

不安定で我慢の限界値が低くなり、要求が多く自己中心的になるのが特徴です。

また、観念奔放といわれる思考形式の障害がみられます。
これは、よどみなく思考が流れても、内容が飛躍してまとまらなくなるものです。

思考の内容面では、自分の能力を過大に評価して誇大的となり、空想や願望が確信に変わって、大言壮語がみられるようになります。

落ち着きがなくなって、絶え間なくしゃべり続け、あちこち動きまわります。

手当たり次第に何かをしようとしますが、あきっぽくて集中できず、計画倒れに終わることが多くなります。

旺盛な意欲を自制できず、思ったままに行動してしまい、金遣いも荒くなったりします。

身体的特徴としては気分が高揚しているために、身体症状を訴えることはあまりありません。

エネルギッシュで、短時間の睡眠でも疲労を感じず、寝食を忘れて行動するために、食欲はあっても体重が減少することがあります。
また、性的逸脱行為が認められるケースもみられます。

躁うつ病を患った有名人

政治家や芸術家のなかには、躁うつ病とみられる人が多数存在していることが知られています。

躁うつ病の病期のなかでも特に躁の状態のときには、高揚した気分や爽快感から、数々の芸術作品や政治的な決定などが行われたといわれています。

軽操状態では次から次へとアイデアがわくことが多く、創造性を発揮する絶好の機会であることは、広く認められているところです。
また、うつ状態での深刻な苦悩や悲哀感情、内省の体験などは、芸術作品に深みと厚さを加えていきます。

政治家ではリンカーンやチャーチルなど、音楽家ではヘンデルやマーラー、チャイコフスキー、シューマンなどが有名です。

画家では、ゴーギャン、ゴヤ、ゴッホ、科学者では、ダーウィンやフロイト、詩人ではパイロンやポーなどがあげられます。

日本では思想家の新渡戸稲造や作家の夏目漱石などがいます。

また、作家で精神科医でもある北杜夫は、自ら躁うつ病と自己診断していることでも有名です。

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